先日、「シン・ゴジラ」の映画を見てきました。
人間ドラマとか恋愛ドラマとかが無いのが賛否両論ですが、私自身は政府の対応の風刺に失笑しながらも、時にはドキドキハラハラと非常に楽しく見させていただけました。
ただ、冒頭(おそらく10分以内)のところでちょっとした不満が。それは、「あぁ、一般的な日本人の地球科学に対する認識はこのレベルなのかぁ」と感じさせられる台詞(場面)があったのです。
もちろん、映画の本筋とは関係ないところですので、私自身のこの映画の評価に影響するところではありません。しかし、映画作成スタッフの多くが違和感を感じなかったということであれば、日本国民の地球科学に関する知識の無さがこんなところにも露呈した結果なんだろうと思いました(少し大げさ)。
<この先、鑑賞に全く差し支えないレベルだと思いますが、一応ネタバレがあります>
続きを読む
それは、東京湾アクアラインが崩落したという事故の第一報を受けて行われた閣僚たちの会議での発言。多くの登場人物(閣僚たち)から「海底火山の噴火じゃ無いのかね?」というような台詞が。気象庁次長(長官?)もキッパリとは否定せず、何とも煮え切りません(二回目を見た方から「終始否定していた」事が確認できたとの情報を頂きました、ありがとうございます)。それは、気象庁次長(長官?)の火山活動を肯定するような台詞です(少なくとも明確な否定をしていません)。しかし、東京湾で火山噴火が起こるはずなど絶対ありません。キッパリと「東京湾では火山活動はあり得ません」と気象庁次長が否定する台詞を入れてもらいたかったものです。
何故、東京湾で火山活動があり得ないかって?
それは、マグマが生産される場所は、東京湾よりも海溝からもっと離れた場所だからなのです。
東日本の日本の活火山と海溝の位置関係を地図にしてみました。
この図を見ると、海溝(黒線)と活火山(赤▲)は、場所によって多少の変化はあるものの、ある一定の距離を保っている事がわかります。そして、この海溝から一定の距離離れたラインを「火山フロント(図中は赤線)」と読んでいます。火山フロントから日本海側(伊豆・小笠原弧では西側)には火山がありますが、太平洋側には火山はありません。
この図(拡大図を参照)のとおり、東京(アクアライン)の位置は火山フロントよりもずっと海溝側で火山ができない場所なのです。
ちなみに海溝と火山フロントの距離は、海溝に沈み込むプレートの角度によって決まります(下図)。沈み込み角は沈み込むプレートの厚さとかで決まるため、そう簡単には変化しません。
逆に言うと、沈み込むプレートの角度が地質学的に短い時間(数年とか数百年)で変わるようなことがあったら、それは大変な大事件で日本沈没クラスの天変地異を伴うことでしょう。
ということで、何の前兆も無いまま火山フロントが海溝側に前進して、ましてや地震活動とかの前兆も無いまま東京湾で火山が噴火する訳がないのです。防災対策の立案や予算配分に関わる官僚や政治家の方々には、少なくとも中学レベルの地学・地理の知識1は持っておいて欲しいものです。
首相とか政治家が知らないのはまだしも(それでも大変困ったものです、そんなレベルの人に防災予算の配分なんて考えてもらいたく有りません)、気象庁の偉い人が知らないのはあり得ない話です。
ということで、アクアラインを損壊した爆発?は「戦争中の不発弾」とか「天然ガスの爆発」とか、最初はそんな形にしてもらえれば良かったと思います。
<注釈>
- ^左巻 健男 監修(2015).「系統的に学ぶ中学地学」(株)文理. のP33に記載あり。
図の作成等には下記サイトの情報を参考および使用させて頂きました
<追記 2016/08/16 22:50>
某SNSでそれなりに反響があるようなので。
そもそもゴジラが出てくる時点でフィクションですから細かいところに目くじらを立てる必要も無いとも思います。しかし、あのシーンが火山噴火である必要は全くないのに関わらず、火山噴火とするのは明らかに地球科学的におかしな話になってしまうのです。他の蓋然性の高い選択肢(上に書いたように天然ガスや不発弾の爆発etc)があるので、そちらの方にしてもらった方が良かったなぁと。
と、それもあるのですが「シン・ゴジラ」という人気の映画をツカミにして、少しでも地球科学的観点を持つ人が増えたら良いなと思い、このエントリを書かせて頂きました。
<追記 2016/08/16 23:20 >
某SNSで「気象庁次長は否定していたのでは?」との指摘を頂きました。
手元に音源(映像)が無いので確認できていませんが、確かに噴火とまでは言い切っていなかったようにも思いますので「火山活動を肯定するような」と訂正いたしました。
<追記 2016/08/17 22:05>
某SNSで、二回目を見た方から「海底火山説は終始否定してた」との情報を頂きました。これを受けて、該当部分の記載を修正いたしました。情報提供を頂き、ありがとうございましたm(_ _)m
また、誤った認識での断言調の記載をしてしまいました、お詫び申し上げます。